友人関係や教師との関係が良い子どもは、抑うつ症状の割合が低い傾向 ~小学校5年生・中学生2年生を対象とした「子どもの生活実態調査」~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)研究所社会医学研究部の加藤承彦、石塚一枝、東京都立大学子ども・若者貧困研究センターの阿部彩、近藤天之らの研究グループは、小学校5年生(16,350人)と中学校2年生(14,927人)を対象に、抑うつ症状を示している割合と、学校生活の状況との関連について分析を行いました。
分析には、東京都、広島県、東京都内の3市区が実施した、「子どもの生活実態調査」[1]を統合したデータを用いました。
抑うつ症状の評価には、日本語版子ども用抑うつ自己評価尺度(DSRS-C)[2]を用い、この合計点数が16点以上を抑うつ症状を示している「抑うつ群」、15点以下を抑うつ症状を示していない「非抑うつ群」と定義しました。
学校生活に関する質問に、「楽しみ」と回答している子どもは、抑うつ群に分類される割合が低い傾向にありました。例えば、「学校の友達に会うこと」に関して、「とても楽しみ」~「楽しみではない」の4つの選択肢から該当する回答を選んでもらい、「とても楽しみ」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生は9%、中学2年生は14%でした。一方、「楽しみではない」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生は63%、中学2年生は75%でした。
「学校の先生に会うこと」に関しても、「とても楽しみ」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生は8%、中学2年生は13%でした。一方、「楽しみではない」と答えた子どものうち、抑うつ群の割合は、小学5年生は29%、中学2年生は36%となり、楽しみにしているほど抑うつ群に分類される割合が低い傾向にありました。
生活実態調査では学校生活の「友人関係」「教師との関係」「部活動」「学校の授業」の側面について、楽しみかどうか聞いています。友人、先生、授業に関する項目の割合は、下記の通りです。
また、小学5年生では全体の14%(男子13%,女子14%)が、中学2年生では全体の23%(男子20%,女子25%)が抑うつ群に分類されました。(注:これらの数値は、いくつかの自治体のデータを統合して算出しており、解釈に注意が必要です。)本研究の成果は、学術誌「厚生の指標」に掲載されました。
[1] 食事や睡眠といった日常生活、授業の理解度や友人関係といった学校生活に関することなどの質問で構成され、子どもたちの置かれている状況を把握するために様々な自治体で実施されている調査。
[2] Depression Self-Rating Scale for Children。直近1週間の自分の気持ちについて18問の質問を行い、「いつもそうだ」「ときどきそうだ」「そんなことはない」の3つのどれかで回答してもらう。子どもの抑うつ症状を測る尺度の1つ。
想定されるメカニズム
本研究では、下記の2つの可能性が考えられます。
①学校生活→抑うつ症状
学校生活の質や充実感の低さが、子どもの抑うつ症状の要因となっている可能性があります。
➁学校外の要因→抑うつ症状→学校生活
社会経済的に不利な家庭環境など、別の要因が子どもの抑うつ症状を引き起こし、それと同時に学校生活にも影響を与えていると考えられます。
因果の方向は特定できていませんが、実際には①②が複合的に子どもの生活に影響している可能性も考えられます。
プレスリリースのポイント
- 大規模な調査をもとに、小・中学生の抑うつ症状の傾向を示した貴重なデータです。
- 学校生活において、「友人や先生に会うことを楽しみにしている」、「学校の授業の理解度が高い」などの子どもは、抑うつ症状を示す割合が低くなっていました。
- 小学5年生では全体の14%(男子13% 女子14%)が、中学2年生では全体の23%(男子20% 女子25%)が抑うつ群に分類されました。(注:これらの数値は、さまざまな自治体のデータを統合して算出しており、解釈に注意が必要です。)
- 授業の理解度や友人関係だけでなく、教師との関係性についても関連が見られました。
- 学校生活の状況について聞いた質問では、「学校の友達に会うことを楽しみにしている」「先生に会うことを楽しみにしている」について、楽しみでないという回答が小5から中2にかけて増加していました。また「学校の授業の理解度」についても、小5から中2にかけて、あまりわからない、わからないことが多い、ほとんどわからないの割合が増えていました(【学校生活の状況について】の図を参照)。
発表論文情報
タイトル:生活実態調査を用いた小・中学生の抑うつに関する分析 -学校生活と子どもの抑うつとの関連に注目して-
執筆者:近藤天之1、加藤承彦2、石塚一枝3、阿部彩4
所属:
1) 東京都立大学子ども・若者貧困研究センター リサーチ・アシスタント
2) 国立成育医療研究センター 社会医学研究部 室長
3) 国立成育医療研究センター 社会医学研究部 研究員
4) 東京都立大学子ども・若者貧困研究センター センター長
掲載誌:一般財団法人厚生労働統計協会「厚生の指標」11月号
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